急増「生活保護」緊急座談会(下)どうする?貧困の世代間連鎖

教育意欲

母子家庭などで子供に貧困が連鎖する不幸な現実がある。

阿部: 教育投資は親の懐具合で決まり、貧困の世代間連鎖が起きている。奨学金は諸外国に見劣りする。教育政策が事情のある生徒に対応できていない。
道中: 生活保護受給層の子の高校進学率は平均より低い。だからこそ進学させるべきだ。高校では知育だけでなく、人間関係を構築する力を鍛えられる。それがないと人生の節目でつまずき、「どうせ僕なんか」「私なんか」と諦めてしまう。それは社会の損失。親も失敗経験を重ねており、子供に期待を抱かない人が多い。親の教育への無関心は子供にとって最大のリスク。親の意欲を高める支援が大事だ。
岡部: 本来は教育や労働、女性、家族、児童政策などで取り組むべきことが女性の貧困や1人親の問題として生活保護の現場に出てくる。それぞれで対策を取り、取りこぼしたところを最後に生活保護ですくい上げればいい。他の制度をいかに充実させるかという政策展開をしないと、どうしても生活保護が増えたことだけに目がいく。本筋はそちらではない。
阿部: 生活保護制度は言わば応急措置。日本社会全体の体質改善が必要だ。

――高齢者や女性への対策を具体的に考えたい。

道中: 元気な高齢者は多く、雇用政策に力を入れるべきだ。「住まい」の問題も重要。住む場所さえあれば、あとは何とかなるものだ。生活保護とは別に住宅手当を創設すれば、受給せずに年金と賃金だけで暮らせる高齢者がたくさん出てくるだろう。公営住宅の活用も検討してほしい。
岡部: 基本的には年金制度の問題だ。現行制度で対応するなら、基礎年金を増額し、住宅手当を支給することでカバーすることになるのではないか。
阿部: 女性の年金額の低さは見落とせない。国民年金を受給する女性の多くは年金額が月3、4万円程度。生活保護を受けずに頑張っている人も多い。今後、状況が悪化するのは明らかで最低保障年金の検討が急務だ。ただ、社会保障給付費の中で年金の割合は大きく、これ以上増やせない。年金受給者の中で配分を再考する必要がある。

国民合意
――生活保護に対する国民の意識は、「お金を渡し過ぎでは」から「当然の権利だ」まで振れ幅が大きい。今後の見直しを進める上でも合意形成は大切だ。

岡部: 憲法で最低限の生活は権利として担保されており、その具体化が生活保護制度。所得の再配分効果が高く、社会をまとめあげる役割を果たしている。こうしたことを研究者、行政、メディアが丁寧に説明していく必要がある。
阿部: 若い生活保護受給者が2年間就労支援を受けて正社員になった場合、そのまま生活保護を受け続けた時に比べて生涯で税収は1億円近く増える。集中的にお金を投資することで、その人が税金を納めるようになれば、長期的には国の財政にもプラスになる。
道中: 貧困に対する認識にばらつきがある。数量的な解析や、実態をえぐり出す数値を示すことで、偏見を是正できる。貧困に関して国政レベルで調査を進める必要がある。

――不正受給は全体の中での額は小さいが、納税者には見逃せない問題だ。
岡部: 福祉事務所で、密に実態を把握するには人員が足りない。また、医療や就労については、専門家のチェックでないと見抜きにくい。ケースワーカーに全部担わせるのは難しい。
道中: ケースワーカーは対人援助技術を駆使し、相談に乗って自立を目指す情緒的な仕事。チェックや審査まですることには無理がある。相談と給付、審査は分けるべきだ。1人のケースワーカーが担当する受給者は80人が標準とされているが、ほとんどの自治体がはるかに超えていることや専門知識が乏しいワーカーが多いことも問題だ。

――自立支援の施策をどう充実させていくか。
岡部: 就労で生活保護を脱する経済的な自立以外にも、子供の学習支援などの自立支援プログラムは増えており、成果をあげつつある。専門的支援としてNPOや企業など他の社会資源を活用することも必要だ。
阿部: 最後はどれだけ支援のために人員を投入するかということになる。単に受給者が生活保護から脱するだけでなく、いろんな意味で社会に貢献する証拠を示し、税金を投入する価値があると市民に納得してもらうことが必要だ。
道中: 費用対効果では評価できない支援もある。受給世帯の子供に対する支援などは単年度では結果が分かるはずもない。子供の将来のためには、人的な支援や税を投入することをためらうべきではない。

「生存権」を保障 行政認定で支給
生活保護制度

生活保護制度は、生活に困った世帯に必要最低限のお金を支給し、自立を促す国の制度。憲法25条に定めた「生存権」を保障するため、1950年に現行制度ができた。年金や雇用保険など、他の社会保障制度で救済できない人の生活を支えることから、「最後のセーフティーネット(安全網)」とも言われる。
生活保護が受けられるのは、世帯の収入や預貯金、親族の援助など、「あらゆる資産や能力を使っても、生活が困難」と行政が認定した世帯。住んでいる地域や世帯構成ごとに定めた「最低生活費」に満たない分のお金が支給される。
東京23区に住む3人世帯(33、29、4歳)の場合、生活費として月17万5170円が支給される。家賃も支給されるほか、医療、介護サービスは無料で受けられる。

目指す制度はトランポリン
2時間にわたる座談会の途中で、3氏に生活保護のあるべき姿について伺うと、「傷口をふさぐばんそうこう」という例え話が出た。あくまで一時的なもの、ということだろう。
社会状況からみて、今後もある程度の受給増はやむを得ない。ただ、可能であれば短期間で抜け出すことが、本人、家族、行政のいずれにとっても望ましい。納税者の求めも同じはずだ。
もう一つ出た例えは「トランポリン」。落ちてもすぐに跳び上がる、というイメージだ。そうした制度を目指して、総合的な見直しが必要だ。(岡部匡志)

引用:(2011年11月17日 読売新聞)

豊中市障がい者市民の会

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