「生活保護」座談会詳報(3)親と子の貧困連鎖

生活保護の母子家庭などで、子どもが社会に出ても、結局、生活保護を受けるようになってしまうといったケースも多く報告されている。子供に貧困が連鎖する不幸な現実はどうしたら解消できるのか。

阿部 義務教育制度は、中学を卒業したら働くという選択肢があった一昔前の発想で設計されている。今の15歳に自立しろといってもできないのは自明で、世代間連鎖が起きるのは必然だ。生活保護世帯の高校進学率も上がってはいるが、大学進学率は、生活保護世帯とそれ以外の世帯で大きな差がある。ただし、これは、生活保護世帯だけでなく、低所得者世帯全体にもかかわる問題だ。子どもの教育への投資は親の懐具合で決まるという厳しい現状がある中で、貧困と生活保護の世代間連鎖が起きている。ただし、二つの連鎖を同じレベルで語ることはできない。まず、貧困の連鎖があり、生活保護世帯もその現象の一部と解釈するのか、働かない親をずっと見てきた子どもは働く気が起きにくいだろうという、福祉の文化の世代間連鎖に着目するのかで、違う話になる。日本の場合は、前者の要素が強い。貧困の連鎖を教育面で断ち切る一つの手段としては、奨学金制度などがあるが、現状は、諸外国に比べて見劣りする。また、教育政策が事情のある生徒に対応できていない。もう少し、教育に福祉的な手法を導入しないと、貧困の連鎖を食い止めるのは難しいのではないか。


道中 子どもの貧困という問題については、社会的な不利益を一気にかぶっている世帯の存在が指摘される。生活保護受給層の家庭で育つ子ども、一人親の家庭で育つ子ども、乳児院で育つ子ども、児童施設で育つ子ども、義務教育からこぼれた子ども、外国人で就学年齢なのに義務教育すら受けることのできない子どもなどだ。その中で、生活保護受給層の子どもに対する学習支援の問題を取り上げたい。私は児童相談所でケースワーカーとして勤務したことがある。こんなエピソードがあった。児童施設に「入所する子どもを高校に行かせてほしい」とお願いしたところ、「この子は勉強が嫌いです。弁当を食べに行くだけだから無駄です。義務教育を卒業したら、出て行ってもらいます」といった答えが返ってきた。その時、私は「この子には、弁当を食べに行くことが大事なんです」と重ねて、お願いをした。15歳くらいで、中学を卒業して社会に出ても、ことごとく挫折して、失敗体験ばかりを重ねることが多い。高校の3年間で、習得して欲しいのは、知育よりも、社会的な成熟性としてのソーシャルスキルだ。つまり、人間関係の間合いがとれたり、言葉で人間関係を調整できるような要領とか、内面の生活力だ。そうしたものを身につければ、自分一人で生きていけるようになる。「弁当を食べるだけでいいじゃないか。3年間がこの子の将来を左右するんだ」と粘って、子どもを高校に行かせることができたという経験もある。いきなり社会に出た子どもが人生の節目でつまずくと、「どうせ僕なんか」「私なんか」と諦めてしまうことが多い。それは社会の損失だ。そうならないように、学習指導を行い、高校に進学してもらう必要がある。親自身も失敗経験を重ねており、努力しても報われなかったことから、子供に期待を抱かない人が多い。親の教育への無関心は子供にとって最大のリスクとなる。親の意欲を高める支援が大事だ。

 岡部 本来は教育や労働、女性、家族、児童政策などで取り組むべきことが女性の貧困や1人親の問題として生活保護の現場に出てくる。それぞれで対策を取り、取りこぼしたところを最後に生活保護ですくい上げればいい。他の制度をいかに充実させるかという政策展開をしないと、どうしても生活保護が増えたことだけに目がいく。本筋はそちらではない。子どもの教育・学習機会を保障する教育政策や、高齢者の年金、一人親の児童扶養手当、非正規雇用の雇用保険などの資格要件、給付水準、給付期間などにかかわる社会保障の構造的な問題にメスを入れることが大事だと思う。

 阿部 生活保護制度は言わば応急措置。緊急の時、血が出ているから、とりあえず止めるというものであって、必要なのは、日本社会全体の体質改善だ。

高齢者や女性への対策を具体的に考えたい。

 道中 元気な高齢者は多く、雇用政策に力を入れるべきだ。「住まい」の問題も重要。住む場所さえあれば、あとは何とかなるものだ。ヨーロッパのように、生活保護とは別に住宅手当を創設すれば、生活保護を受給せずに年金と賃金だけで暮らせる高齢者がたくさん出てくるだろう。公営住宅の活用も検討してほしい。生活保護は、扶助が8種類に分かれて複雑な制度となっているため、入りにくくて出にくい側面もある。例えば、医療の費用が必要なときは、医療だけ、住宅の費用については、住宅手当だけとか、使いやすくして、トランポリンのように、いったん落ちてもはい上がれるというような出口政策を練らないといけない時代になったと思う。

 岡部 基本的には年金制度をどう考えるのかだ。現行制度で対応するなら、基礎年金を増額し、失業者を対象とする住宅手当を高齢者にまで拡大して支給し、カバーすることになるのではないか。

 阿部 女性の年金額の低さは見落とせない。国民年金を受給する女性の多くは年金額が年間60―80万円程度。生活保護を受けずに頑張っている人も多い。今後、状況が悪化するのは明らかで、最低保障年金の検討が急務だ。ただ、社会保障給付費の中で年金の割合は大きく、これ以上増やせない。年金受給者の中で配分を再考する必要がある。

引用:2011年11月28日 読売新聞

「生活保護」座談会詳報(2)就労支援をどうするか

 道中 生活保護を扱う福祉事務所は、福祉の対象として、働けない非稼働世帯を中心に動いてきた。このため、稼働年齢層への支援体制はまだまだ弱い。生活保護世帯分類では、稼働世帯は「その他」に入るが、17%を占め、さらに増加が見込まれる。

 今後は、福祉事務所の実施体制も見直さなくてはならない。もちろん、福祉事務所のケースワーカーは、就労支援に力を入れてきたが、実際には個人の資質や熱意に左右されるレベルだ。組織として対応するようになっていない。こうした点も見直さないと効果が上がらない。

 とはいえ、ケースワーカーと福祉事務所だけで、就労支援を成功させるのは難しい。本体の労働行政で、職業訓練に取り組むなど、他の機関の支援も必要だ。

 最低賃金については、この5年ほど、罰則が強化され、違反にも厳しい指導がなされるようになってきた。この10月に改定があり、生活保護の水準を下回るのは、3県だけになった。賃金コストが高くなると、企業の競争力がなくなると言った理由で、最低賃金の引き上げを懸念する声もあったが、実際には、意外にすんなりと引き上げが実現した。

 しかし、この10月の改定は、これまでに比べて、伸び率が落ち、均衡状態に入った印象を受ける。これをどのように評価するのかだ。

 阿部 私が強調したいのは、雇用の創出だ。それと、雇用の中味の問題だ。今は、普通の人でも正規雇用で働くのは大変な時代になってしまった。生活保護受給者は心理面や家族に問題を抱えているケースが多く、いきなり「企業戦士のように24時間働いて」と求めても厳しい。やはり、労働市場の開拓が必要で、もう少し労働者にも優しい働き方、柔軟な働き方を選べるようにならないと、結局のところ、いったん就労してもまた失職する、が繰り返されてしまう。

 ――取材した記者からも、心の問題を含め、就労現場に適応できない人が目立つという声があった。では、労働市場の改革はどのように進めたら良いのか。

 岡部 阿部さんが言われた、優しい働き方ですが、釧路市の取り組みを紹介したい。釧路市では、市がNPOや事業所の協力を得て、生活保護受給者にボランティアや就業体験をしてもらい、自立を促す事業をしている。一般労働市場で、企業戦士のように働くのも選択肢の一つだが、なかなか労働市場の要請するスキルだとか知識だとかに答えるのは難しい。

 病気や障害などがある受給者の場合、「半福祉半就労」といった中間的就労も選択肢にするべきだ。賃金が伴わないボランティアなどの社会参加を広い意味での就労ととらえて、評価する仕組みがほしい。

 阿部 そういう「半福祉半就労」とともに、私は一般労働市場も改革していかなければならないと思う。これは生活保護だけの問題ではない。日本はこれから、将来的に労働力が減っていくのは目に見えていることなので、経済界としても真剣に取り組むべき課題のはずだ。

 例えば、女性が働きやすい職場を作ること。女性の多くは、家族のケアもあり、男性と同じように夜遅くまで働くような働き方は求めていない。本当は、男性もそうだろう。子どもの寝顔しか見ることができない働き方でしか、まともな収入が得られないような状況では、日本はどうしようもない国になるのでは。

引用:2011年11月25日 読売新聞
豊中市障がい者市民の会

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